2008.03.22 Saturday14:17
人口7500人の小さな町の、100年後が見えていた大きな町長の話
先日読んだ「花粉症は環境問題である」に興味深いエピソードがあったので紹介してみます。
今東国原知事で話題の宮崎県に綾町という人口7500人余りの小さな町がある。そこには日本最大の照葉樹林帯が今も残っていて、絶滅危惧種のクマタカなどが生息し、豊富な自然が拡がっているそうだ。その森を残した故郷田実町長のエピソード。
1960年当時は拡大造林と称して森林を伐採して住宅等資材に利用し、スギなどの人工林に植え替えることが世論であり国策でした。
町民全員が木を伐採することに賛成していた中、町長だけが反対し町民を説得したそうで、日本中を敵に回してでも守るという決断をしているところに凄さを感じますね。後に戦後最大級の失敗に終わる拡大造林政策に従って補助金と収入という目先の利益に釣られて山を伐採していたら、現代の林業に依存するしかない村落のように、限界集落化して町自体無くなっていたかもしれません。
照葉樹林を守っただけでなく、先を見越して様々な手を打っているところに卓越した手腕を感じます。
このような、先を見通し、かつ対処できる人は、何をどのように見ているのだろうか。
山本七平は『「空気」の研究』で日本が空気に左右されてしまう様をこう書いていました。
日本社会は目の前に現出する情況が生み出す空気に左右されやすい特徴があり、その結果未来を見通すことが出来なくなっており、「未来の予測を必要とする集団」は「自らを一種の鎖国状態」に置くことで目の前の情況が生む空気に左右されないようにしている、ということでした。
「言葉によって未来を構成し、その未来を実感をもって把握し、現実的に対処すべく心的転換を行う」ことが先見の明と言うことだろうか。そしてこの山本七平の指摘となんだか符号しそうな故郷田実氏のコメントを見つけました。
都会に背を向ける、つまり、あえて空気読まない。ということかも知れない。
そして、この人は50年どころか、もっと先が見えていたように思う。
・・・郷田実氏は綾町町長を六期二十四年務めたのち1990年に引退。2000年に81歳で天寿を全うされたそうだ。
退任時の言葉は
郷田実氏が亡くなってから五年後。
故人の遺志は受け継がれているのだろうと思います。
ちょっと綾町に行ってみたくなった。
参考サイト
・綾町役場
・綾の照葉大吊橋(宮崎県綾町にある大吊橋)照葉樹林
・人工林 - Wikipedia
・chita・知多クリック-町づくりレポート -宮崎県綾町-郷田実町長に学ぶ
・太田清海*県議会だより*平成18年2月議会
関連エントリー
・Kousyoublog | 「花粉症は環境問題である」奥野 修司 著
・Kousyoublog | 「木を植えよ! (新潮選書)」宮脇昭著
・Kousyoublog | 「鎮守の森」宮脇昭著
・Kousyoublog | 「日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか」内山節著
・Kousyoublog | 「「空気」の研究」山本七平著
関連書籍

命を守り心を結ぶ―有機農業の町・宮崎県綾町物語
郷田 実,白垣 詔男

結いの心―子孫に遺す町づくりへの挑戦
郷田 実,郷田 美紀子
今東国原知事で話題の宮崎県に綾町という人口7500人余りの小さな町がある。そこには日本最大の照葉樹林帯が今も残っていて、絶滅危惧種のクマタカなどが生息し、豊富な自然が拡がっているそうだ。その森を残した故郷田実町長のエピソード。
「花粉症は環境問題である (文春新書 619)」(P171〜173)
綾町には日本最大の照葉樹林が残っている。植物だけでも八四八種が確認され、野生動物や昆虫類が多数生息する森だ。(中略)およそ1700ヘクタール(現在は2000ヘクタール)と、日本最大の照葉樹林である。照葉樹林は、シイ、カシ、クスのような常緑広葉樹でできた森のことで、葉の表面に光沢があることから「照葉樹」と呼ばれる。(中略)かつて西日本を覆っていた照葉樹林も、いまやほとんど伐採されて、全国でわずか60万ヘクタールしかないという。そんな中で最大級の面積を誇っているのがこの綾の照葉樹林なのだ。
この照葉樹林が残ったのは、「拡大造林」が叫ばれていた一九六六年に町長になった故・郷田実氏が、住民を説得し、林野庁を説得し、農林大臣に直訴して、ようやく伐採を免れたものだ。
郷田さんはこの森を残すと、今度は「人と山の架け橋をつくる」といって、深い渓谷に長さ250メートルの「照葉大吊橋」をかけた。当時は「狸のために橋をかけた」といって議会で笑いものになったという。なにしろ、橋を渡っても照葉樹林の山があるだけで、どこへも行けないからだ。
郷田さんには50年先が見えていたのだろう。まだ無農薬やオーガニックという言葉さえ知らなかった六〇年代後半に、「豊かになればきっと健康を買う時代がやってくる」と、住民に有機野菜をつくらせたこともそうだ。
いまや「綾の有機野菜」を買いに来る客と、照葉樹の森を見にくる観光客を合わせると年間100万人をこえるという。この森が残ったおかげで、かつて西日本一貧乏な町といわれた綾町が、いまや所得も宮崎市より豊かになったといわれる。「平成の大合併」に、孤高を守り通したのも、この経済的余裕があったからだろう。
1960年当時は拡大造林と称して森林を伐採して住宅等資材に利用し、スギなどの人工林に植え替えることが世論であり国策でした。
人工林 - Wikipedia 拡大造林の歴史
1950〜1970年代前半には、空前の住宅建設ラッシュが発生し国内の木材需要が逼迫。木材が高いから住宅が建てられない、売り惜しみだという非難が当時の林業界に集中。新聞記事でも大々的に取り上げられている。このため、天然林を伐採した跡などにスギやヒノキなどを植栽する「拡大造林」が官民をあげて奨励された。
その後、1970後半〜80年代にかけて木材輸入制限が緩和、海外からの輸入量が急増すると一転して木材価格は暴落。日本の山には、採算の取れない人工林の多くが取り残されることとなった。
町民全員が木を伐採することに賛成していた中、町長だけが反対し町民を説得したそうで、日本中を敵に回してでも守るという決断をしているところに凄さを感じますね。後に戦後最大級の失敗に終わる拡大造林政策に従って補助金と収入という目先の利益に釣られて山を伐採していたら、現代の林業に依存するしかない村落のように、限界集落化して町自体無くなっていたかもしれません。
照葉樹林を守っただけでなく、先を見越して様々な手を打っているところに卓越した手腕を感じます。
このような、先を見通し、かつ対処できる人は、何をどのように見ているのだろうか。
山本七平は『「空気」の研究』で日本が空気に左右されてしまう様をこう書いていました。
山本七平『「空気」の研究 (文春文庫 (306‐3))』(P217)より
「人は未来に触れられず、未来は言葉でしか構成できない。しかしわれわれは、この言葉で構成された未来を、一つの実感をもって把握し、これに現実的に対処すべく心的転換を行うことができない」
日本社会は目の前に現出する情況が生み出す空気に左右されやすい特徴があり、その結果未来を見通すことが出来なくなっており、「未来の予測を必要とする集団」は「自らを一種の鎖国状態」に置くことで目の前の情況が生む空気に左右されないようにしている、ということでした。
「言葉によって未来を構成し、その未来を実感をもって把握し、現実的に対処すべく心的転換を行う」ことが先見の明と言うことだろうか。そしてこの山本七平の指摘となんだか符号しそうな故郷田実氏のコメントを見つけました。
chita・知多クリック-町づくりレポート -宮崎県綾町-郷田実町長に学ぶ
町づくりをやるときは、都会に背を向けなけりゃいかん。綾にたって都会を見ておったら、都会らしい町にしかならんのです。田舎田舎と思って、都会と田舎の中に立って都会に背を向けてやらないかん。
よその町と比較して異なるものを町づくりの核にしようということです。
同時にただ異なるだけでなく、近未来に広く共感が得られるようなものでないと駄目である。
都会に背を向ける、つまり、あえて空気読まない。ということかも知れない。
そして、この人は50年どころか、もっと先が見えていたように思う。
chita・知多クリック-町づくりレポート -宮崎県綾町-郷田実町長に学ぶより
もうけようもうけようと思って物を作る時代は終わるのよ。自分がもうけよう楽をしようという、ひとはどうでもいい、ひとの健康がどうでもいい物作りは終わる。これからはどうしたら喜んでもらえるのか、どうしたら食べる人が健康になってもらえるか、そういう物作りじゃなかったら駄目なのよ。本物を作る、どこにも負けんような物を作る、それは巡り巡って、わが綾町で物作りができる、働く場所ができるということなのよ。
・・・郷田実氏は綾町町長を六期二十四年務めたのち1990年に引退。2000年に81歳で天寿を全うされたそうだ。
退任時の言葉は
太田清海*県議会だより*平成18年2月議会よりだったそうだ。
町長として胸を張れるのは、照葉樹林を残したこと。でも、森の本当の価値を、町民はわかってくれるだろうか。
郷田実氏が亡くなってから五年後。
「花粉症は環境問題である (文春新書 619)」(P174)より
二〇〇五年、「太古の森を復元しよう」と、官民一体で「綾の照葉樹林プロジェクト」が発足した。(中略)国有林8700ヘクタールを核に、県と町有林をあわせた1万ヘクタールを、綾町が中心となって、一〇〇年かけて元の植生に復元するのだという。
故人の遺志は受け継がれているのだろうと思います。
ちょっと綾町に行ってみたくなった。
参考サイト
・綾町役場
・綾の照葉大吊橋(宮崎県綾町にある大吊橋)照葉樹林
・人工林 - Wikipedia
・chita・知多クリック-町づくりレポート -宮崎県綾町-郷田実町長に学ぶ
・太田清海*県議会だより*平成18年2月議会
関連エントリー
・Kousyoublog | 「花粉症は環境問題である」奥野 修司 著
・Kousyoublog | 「木を植えよ! (新潮選書)」宮脇昭著
・Kousyoublog | 「鎮守の森」宮脇昭著
・Kousyoublog | 「日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか」内山節著
・Kousyoublog | 「「空気」の研究」山本七平著
関連書籍

命を守り心を結ぶ―有機農業の町・宮崎県綾町物語
郷田 実,白垣 詔男

結いの心―子孫に遺す町づくりへの挑戦
郷田 実,郷田 美紀子











