2009.10.28 Wednesday00:56
日本の地域コミュニティはいかにしてわずか100年で解体したか?
以前紹介(「コミュニティを問いなおす―つながり・都市・日本社会の未来」広井 良典 著)した広井良典教授の「コミュニティを問いなおす」では、第二章で地域コミュニティの中心について論じられており、地域コミュニティに関するとてもよい入門になっています。

タイムリーなテーマ建築家の黒川紀章は、「都市の歴史的変容」という視点で概観した場合、「都市の中心」は以下の順番で変化していったと語ったそうです。
1)神殿を中心とした"神の都市"
2)宮殿を中心とした"王の都市"
3)広場を中心とした"商人の都市"
4)大企業の本社や銀行、百貨店等を中心とした"法人の都市"
5)中心のない"個人の都市"
市場化(都市化)・産業化がなされる以前の伝統社会において「コミュニティの中心」としての役割を果たしていたのはヨーロッパであれば教会、日本であれば神社やお寺などの宗教関連施設であった。それらは宗教的役割に限らず教育機関としての役割や、市場が神社・お寺の周囲に形成されていったように経済の中心でもあった。
続く都市化・産業化の時代においては宗教と渾然一体であった教育・経済の機能がそれぞれ独立し、経済機能としての商店街、教育機能の代表である学校と、劇場や美術館、繁華街など文化・遊びの機能が地域コミュニティのコアとして人の集まる場所となっていきました。
日本において、宗教施設が地域コミュニティの中心ではなくなっていくプロセスは明治時代に顕著でした。
明治初期、日本の神社の数は十八万余で、自然村の数とほぼ同数でしたが、明治三十九年の神社合祀によって明治末には約十一万余り、現在は八万余にまで減少しています。
この流れは一八七一年の戸籍法制定に始まります。
・明治四年(一八七一)、戸籍法制定
・明治十一年(一八七八)、新戸籍法制定
明治四年の戸籍法によって一区あたり千戸の戸籍からなる地域に神社一つを郷社に指定する江戸時代の「宗門改め」に代わる氏子を基準にした制度が整えられます。このとき作られたのが壬申戸籍と呼ばれるものでしたが、不備が多く明治十一年にこの郷社氏子制は廃止。
・明治二十二年(一八八九)、市制・町村制
郷社氏子制に代わって、もともとあった自然村を大字・小字に格下げして市町村を再編成する市制・町村制が制定。これによって行政区分上の自治体が形成されていきます。
この再編成後、義務教育を行う学区と国民教化・道徳教育の基盤となる神社の氏子区を関連づけるべく神社の統廃合と再編成が進められていきます。
・明治三十九年(一九〇六)、神社合祀
神社合祀は明治三十九年に勅令によって強制的に進められ、多くの神社が取り壊されていきました。南方熊楠は「合祀は地方を衰微せしむ。」として神社合祀に反対の論陣を張りましたが、その甲斐無く、全国各地で神社は解体され、合祀されていきました。三重県ではおよそ九割の神社が廃されたと言われています。
今、多くの神社で一つの境内に複数の拝殿があったり、祭神が複数いるものはこの神社合祀の名残りです。また、地域の人たちも素直に神社合祀に従わず、様々な言い訳をつけて神社を残そうとしたエピソードが各地に残っていたりします。
僕が都内の神社を回って見かけたものでは、合祀したけれど夢枕に神様が立ち故地に帰りたいと懇願してきたので小さな祠を立てたというものや、同様に合祀した翌日、白髪の老婆が村人たちの家々を回り「犬に吠えられたので入れなかった」と言って周り、調べてみると合祀先に犬の狛犬がいたので、おそらくこの犬に吠えられたのだろうということで、元の地に小さなお宮を作ったというもの、など個性に富んだエピソードがあって、散歩の際や、何気に調べ物をする際にそれらを見るたびに、神社合祀の頃の人々の思いを感じて熱い気持ちにさせられていた。
さて、市制・町村制によって1889年時点で、自治体数は約一万六千(三十九市、一万五千八百二十町村)まで減少。さらに戦後、昭和の大合併(一九五三〜六一)で9868から3452へ、さらに平成の大合併によって2009年末時点で1760へと減少。神社(鎮守の森)と地域コミュニティの関連はほぼ消滅する。
つまり、日本の地域コミュニティの原型は神社(鎮守の森)が一つの核をなしていたが、神社の合併・統廃合と明治維新以降神社を中心とした地域コミュニティが順次集約・統合されることとが同時進行したのが行政上の自治体の成立であった、と言える。
その間、義務教育の学区が成立し、商店街が地域経済の中心となり、劇場等文化・遊びの中心が出来、地域コミュニティの中心は分散しつつ、商店街については空洞化が進んでいった。
著者の広井良典教授は市場化・産業化の後に今迎えようとしているポスト産業化時代の地域コミュニティの核となる機能として「宗教」「経済」「教育」に加えて「福祉」「環境」「スピリチュアリティ」「研究(創造性)」の四つを挙げている。
以前書いたエントリーでも触れたが、1940年から2050年という100年のトレンドで見た場合、これまでの50年というのは若い人々つまり地域コミュニティと関わりの薄い人々の増加期だったがこれからの50年というのは一貫して高齢者つまり地域との関わりが強い人々の増加期に入る。そこで高齢者ケア施設等の福祉施設や公園、農園等の自然関連の場所がコミュニティの中心として重要になる。
また、スピリチュアリティというのはニューエイジ系スピリチュアリズムを言っているのではなく、より一般化された死生観のようなもののことだ。
(P88)
かつて神社・お寺や教会が担っていた「宗教」的な機能は、特定の信仰・教義というよりはより一般化された形での関心に変容し、スピリチュアリティ(ここでは「生と死を超えた次元」に関するテーマへの関心といった意味)等への思考となって展開し、この結果たとえば(高度経済成長期においては人々の主要な関心の外に置かれていた)神社・お寺などの空間が、新たにケアや環境学習等の舞台として再発見されていく。
つまりかつてコミュニティの中心であった宗教施設は、その教義や宗派を超えた形で人々の関心の中心として復活してくるのではないかという指摘で、これは慧眼だと思うし、そのようなこれまでの教義からの解脱というのは一つの方向性としてありなんではないかと思う。それに先んじているのがいわゆるスピリチュアリズムと呼ばれる新宗教たちで、旧来の神道・仏教等は、人々の根源的な問いを分かりやすく語る方向へとさらにシフトしていく方が良いだろうと思う。また、神社・寺院は現状でも充分に人々の関心を惹いているし、さらに人を集められると思う。
最後の「研究(創造性)」については「知的な探求あるいは知識や文化の創造ということが人々にとっての主要な関心の柱のひとつとなり、「大学」の意義が新たな重要性を帯びるようにな」るとともに「その土地の地理的特性や環境、歴史性等を踏まえたローカルなレベルでの知や、福祉、環境、まちづくり等に関するNPO等の活動が活発になっていくので、それらと呼応しながら「コミュニティの中心としての大学」」が意味を持つという説なのだが、僕は少し懐疑的ではある。
おそらくその役割の多くはインターネットが担う。知識や情報についての関心は地域コミュニティの枠からはみ出てもっとグローバルに展開するだろう。大学はその情報源の一つとして重要な役割であり続けるだろうが、地域コミュニティのコアとして果たして大学が機能するかどうかは疑問だと思う。
ただ、著者が続けて書いている大学と商店街のコラボレーションや大学を拠点としたNPO、地域住民の連携という点には一定の効果はあるかもしれないが、それも大部分がインターネットで代替され、リアルで会うときの場所貸し程度に留まっていくのではないだろうかという気がする。
そして、地域コミュニティが形成される基盤となる「人口が集積される場所」の基本的性格として「伝統社会」においては「農村、漁村」等、「市場化・産業化時代」は「商業都市、企業都市、工業都市」等がその役割を担ってきたが今後の「ポスト産業化時代」においては「生活都市」が地域コミュニティの基盤となるとしている。
コンパクトシティ、サスティナブルシティ等各分野から様々なコンセプトの都市像が提案されてきたとのことだが、著者は福祉都市というコンセプトが重要だという。福祉と都市政策をリンクさせた福祉地理学を著者は提唱しており、この本はその政策論という意味合いがとても強い。個別具体的な内容についてはまた改めて書きたいですが、このような歴史的変遷の解説は、漠然とした知識を綺麗に体系化してくれていてとても興味深かったです。
著者が言う地域コミュニティの基盤となる「生活都市」の形成については、個人的に思うのは今の日本社会で大多数を占めるワークスタイルの大きな変革が重要だなと思います。いかにして自身の住空間と近い環境で働き、地域コミュニティや家族等との時間を持てるようにするか。
自律的・主体的な働き方を多くの人たちが構築出来るようにしていくことが出来ると、ある種の断絶や孤立の状態から緩やかな紐帯ができ、ソーシャル・キャピタルが形成され各所でコミュニティの再構築へと進むのではないだろうかと考えています。
このテーマについてはこれからも引き続き何か書いていくつもりです。
参考
・壬申戸籍 - Wikipedia
・神社合祀 - Wikipedia
・南方熊楠 神社合祀に関する意見
関連エントリー
・「コミュニティを問いなおす―つながり・都市・日本社会の未来」広井 良典 著
・「日本人はなぜキツネにだまされなくなったのか」内山節著
・既存宗教に変わって急拡大する「宗教的なるもの」への信仰
・「鎮守の森」宮脇昭著
・「社」という語の由来から垣間見る日本人のコミュニティ信仰
・「フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか」ダニエル・ピンク 著
・いかにして「信頼」をベースにしたネットワークを形成するか
・日本の『クソ労働環境』成立の歴史的背景と諸悪の根源

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これは・・・教科書ですね
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