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「ポンヌフの恋人」レオス・カラックス監督

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おすすめ度の平均: 4.5
4 主演二人の純粋な愛
4 「不器用ながらも“生きる愛”」に拍手
5 恋する心の高揚が、痛いほど伝わりました
5 好きな映画のひとつです


ポンヌフの恋人を10年ぶりぐらいに観た。

パリを流れるセーヌ川に架かるフランス最古の橋、ポンヌフ橋のたもとをねぐらにするホームレスの青年アレックス(ドニ・ラヴァン)と、失明寸前の絶望から放浪の末にポンヌフ橋に辿りついた絵描きの女性ミシェル(ジュリエット・ビノシュ)のラブストーリー。

フランス映画界の奇才レオス・カラックスの代表作の一つで「ボーイ・ミーツ・ガール」「汚れた血」に続くアレックス三部作の最終章と言われている。個人的には「汚れた血」が一番好きなんですが、「ポンヌフの恋人」もさまざまな魅力がある力強い作品で、特に孤独についての描写が見事だと思う。

アレックスは何度かホームレスから抜け出すチャンスがありながら、しかしポンヌフ橋での生活に異常なほどに執着する。劇中ミシェルが「自分の殻に閉じこもらないで」と強く諭す場面があるが、彼の橋への執着はその孤独ゆえだろう。

自身の自我を守るためにさまざまな関係を断ち切り、ありとあらゆるものをそぎ落とし続け、他者との関係性だけでなく衣食住すらも最低のものにして、たった一つの、ポンヌフ橋だけを自我の拠り所にすることで壊れやすく傷つきやすい小さな自我を守ろうとしているのだろう。それによってどれほど自身が傷つき、追いつめられ、未来の見えないホームレス生活を続けようとも。

自身の自我を求めて、あるいは自我を守るために、何かをそぎ落としていくというプロセスは大なり小なり多くの人が経験することだと思うのだけれど、徹底的にそぎ落としていったとしても守るべき自我というものは往々にして見つからないことの方が多い。それどころか見つけたと思ったそのアイデンティティは実はただの執着でしかない。

そのような自我と言う名の執着に囚われる青年と、失明の恐怖から未来を見失いさ迷う女性との剥き出しの交流はぶつかり合っているようで何もぶつけていないし、恋愛のようで実は依存であるように見える。そのような執着と絶望の交流が繰り返され、様々な紆余曲折があって、最後の最後にやっと笑顔へとたどり着く。ここからがスタートなのだろう、いや、始まるといいよね。と船上から二人がタイタニックごっこ(って、こっちの方が先だけど(笑))をしながら眺める美しいアーチ状のポンヌフ橋の姿を観ながら思った。

映像美もまた見どころで、中盤の革命200周年記念の大花火の下でポンヌフ橋で踊り、さらに警察の船をパクって水上スキーでセーヌ川を駆ける美しさは圧巻。それまでが「体当たり演技」という陳腐な形容詞以外思いつかないレベルの汚なさ全開なホームレス生活っぷりなので、そのまさにハレとケな対比に惚れ惚れします。

また、同じくポンヌフ橋で生活する初老のホームレス男性ハンスを演じるクラウス=ミヒャエル・グリューバーが素晴らしかった。女性がホームレスをすることの過酷さとか、彼自身がホームレス生活に身をやつすまでの語り、あるいは表情など実にいい存在感だった。

ちなみにフランスはヨーロッパでもホームレス(SDF:サン・ドミシル・フィクセ(特定の住居を持たない者))の数が多く、特にこの作品が撮影された1980年代後半までは宿泊扶助以外のホームレス支援が特に存在せず、また80年代中盤頃から雇用状況の悪化によってホームレスの数が急増した時期のようだ。フランスの現行ホームレス支援制度は80年代後半から90年代前半に創設されている(参考:「ホームレス支援対策をめぐって―各国の状況―」 )。冒頭、宿泊施設の生々しい描写があるが、そういうホームレス問題が目の前の危機としてあったという社会背景もこの作品にはあるのだろう。

フランス社会のリアル、さまよえる個人のアイデンティティ、そして剥き出しの男と女の関係性と愛が生まれるまでを美しく描いた傑作の一つだと思います。しかし、レオス・カラックス監督・・・生きてますか?



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