評価:
寺澤 盾
中央公論新社
¥ 819
(2008-10)
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6961位
梅田さんのエントリと発言を契機にして日本語論英語論が花盛りですが、つい先月、こんな本が出ていたので迷わず購入して読了しました。著者は、現在、東京大学で英語史の准教授を務め、またハーヴァード大学の客員研究員でもある寺澤盾氏。「英語の歴史」というオーソドックスで直球なタイトル通り、英語の起こりから英語のこれからまでがIknow初級コースでLの発音に四苦八苦しているような僕でもさらりとわかった気になる一冊です。
■H・G・ウェルズの予言
「SFの父」ハーバート・ジョージ・ウェルズ(Herbert George Wells)は1933年、22世紀初頭の未来から時代を遡る未来歴史小説『世界はこうなる』(The Shape of Things to Come)という小説を発表した。その作品中、20世紀から21世紀を回顧して、こう描写した。
「英語の歴史」(P4-5)
One of the unanticipated achievements of the twenty-first century was the rapid diffusion of Basic English as the lingua franca of the world and the even more rapid modification, expansion and spread of English in its wake.
The English...has shed the last traces of such archaic elaborations as a subjunctive mood; it has simplified its spelling, standardized its pronunciation, adopted many forein locations and naturalized and assimilated thousands of foreign words...This convenience...was made the official medium of communication throughout the world by the Air and Sea Control, and by 2020 there was hardly anyone in the world who could not talk and understand it.
(21世紀における予想もしなかった成功の一つは、ベーシック・イングリッシュが世界の共通語として急速に普及したことであり、その過程でさらに英語が急速に改訂され、発展し、普及したことである。(21世紀の)英語では・・・仮定法のような古めかしく手の込んだ表現の痕跡はもはや見られず、綴りは簡略化され、発音も標準化され、多くの外国語法が取り入れられ、何千にも及ぶ外国語が同化された。<中略>この便利な道具は・・・航空・海上管制言語として世界中で公式のコミュニケーションの手段となり、2020年までには、英語を話したり理解したりすることのできない人はほとんどいなくなった。)
The Shape of Things to Come: The Ultimate Revolution (Penguin Classics)
H. G. Wells
世界はこうなる〈上〉―最後の革命
H.G. ウェルズ
世界はこうなる〈下〉―最後の革命
H.G. ウェルズ
まさに70年以上前にH・G・ウェルズが予言した通りの状態に今なりつつある訳ですが、現在英語話者数15億人とも言われる英語はどのような歴史を辿ってきたのか。英語の歴史は大きく古英語期、中英語期、近代英語期の三つの時代に分かれます。
■古英語期(Old English,AD450頃-11世紀末)
当初、英語を使っていたのはブリテン島に住む人々ではなく、その周辺、現在のデンマーク、北西ドイツ、オランダあたりに居住していたアングル人、ジュート人、サクソン人、フリジア人たちだった。彼らは「ゲルマン民族大移動」によって五世紀〜六世紀ごろにかけてブリテン島へ移動し、先住民族のケルト人を西方のカンバーランド、ウェールズ、コーンウォールに追いやり、テムズ川周辺を中心としたブリテン島南部に定住した。この頃、サクソン人を撃退したケルト系の王または、ローマ帝国の将軍とも言われる人物をモデルにしたのがアーサー王だと言われています。
アングル人、サクソン人らはゲルマン語族に属し、現代でも英語はfatherとVater、motherとMutter、houseとHaus、fieldとFeldなどドイツ語との類似性が高く、また、オランダ語などとも近しい。インド=ヨーロッパ語族の一種ゲルマン基語は紀元前一世紀ごろ、東ゲルマン語(ゴート語など)、北ゲルマン語(スウェーデン語、デンマーク語、ノルウェー語、アイスランド語)と西ゲルマン語の三種類に分かれ、その後時期は不明ながら西ゲルマン語は高地ドイツ語(ドイツ語など)、低地ドイツ語(オランダ語、フラマン語など)、アングロ・フリジア語(英語など)に分かれていったと考えられている。
古英語の主な特徴は「他言語からの借用語が少なく、派生と複合による新語の形成が活発で、文法的に豊かな語形変化、語順も自由で、代名詞の省略が可能であった」ことだといえる。
・古英語の文法
「英語の歴史」(P43)
古英語では、名詞、形容詞、動詞は文で果たす役割に応じて語形変化をした。たとえば、現代英語ではkingという名詞は、語形変化をするのは所有格のking's, kings'、複数形kingsの場合だけであるが、kingに対応する古英語のcyningは、複数の場合だけでなく、文中の文法的役割によって、cyninges, cyningas, cyninga, cyningumのように形を変えていく。
また定冠詞も現代英語ではtheを覚えればよいが、古英語では冠詞が就職する名詞の文法性、文中での役割、単数・複数によって(中略)10以上の異なる形をもっていた。
(中略)
動詞も、時制(過去・現在)、法(直説法・仮定法・命令法)、主語の人称・数によって縦横無尽に形を変える。
古英語期の代表作「ベーオウルフ」(Beowulf、作者不詳)の例が紹介されている。
古英語叙事詩『ベーオウルフ』対訳版「英語の歴史」(P43-44)
Se feond drep pone cyning sweorde.
(敵は王を刀で打った)
という文では、冠詞の形(seは主格、poneは対格)を見れば、seをともなったfeond(敵)が主語で、poneの付いたcyning(王)が対格目的語であり、与格語尾の-eが付いているsweorde(刀)は手段・道具を表していることがわかる。したがって、かりに、
Pone cyning se feond drep sweorde.
のように語順を入れ替えたとしても混乱は生じない。
このように、古英語期は現代のようなSVO文法に固定されていなかった。
・派生語や複合語などの新語形成
この本を読んでいて、古英語の魅力はここだなぁと思ったのが、派生語や複合語など新しい言葉を生み出していくところですね。
「英語の歴史」(P58)
古英語ではラテン語や北欧の古ノルド語からの借用語は見られたが、中英語や近代英語と比べると外来語への依存度は低い。新たな概念・事物に対応して語彙を増やす必要が生じたとき、(中略)古英語では一般に借用語に頼らず自前の素材、つまり英語にもともとあった語などを組み合わせることで新語を形成した。
「派生」
接辞(語とは違ってそれ自体、単独では用いられない要素)を語に付けて新たな語を作る方法。
例えばgetの古英語gietanにbe-、for-、ofer-(=over)を接頭辞としてつけて
begietan(得る), forgietan(忘れる), ofergietan(怠る), ongietan(掴む、把握する), undergietan(理解する)
などが形成された。
「複合」
語と語を結びつけて別の語を作り出すもの。複合語の中でも隠喩を伴った複合語をケニングという。
例えばheavenの古英語heofonは様々な語と結びついて
heofon-beorht(天のように輝いた)、heofon-dream(天上の喜び)、heofon-engel(天使)、heofon-steorra(天の星)、heofon-candel(天のろうそく=太陽・月・星)、heofon-cyning(天の王=神)、heofon-duguo(天の軍勢=天使)、heofon-weard(天の守り手=神)
などが形成された。
しかし、このような複合語も中英語〜現代英語期までにほとんど廃れてしまったという。その理由は置き換えることが出来る外来語が入ってきたことによる。例えばランプは古英語ではleoht-faet(光の器)という複合語だったが、中英語期にフランスからlampが入ってきたことで使われなくなった。
同書では、ここで複合語クイズが出されていて面白いので紹介。
「英語の歴史」(P60)
以下の古英語の表現(ケニング)が何をさしているのか、謎解きをしてください。たとえば、hron-rad(鯨の路)は「海」を意味します。
(1)feorh-hus(命の家)
(2)heafod-gimm(頭の宝石)
(3)beadu-leoma(戦の光)
(4)guo-wine(戦の友)
(5)hilde-scur(戦のにわか雨)
(6)sae-wudu(海に浮かぶ木)
(7)mere-hengest(海の馬)
(8)gold-giefa(黄金を与えるもの)
(9)gamen-wudu(喜びの木)
(10)waeg-faet(水の器)
回答は、この本の60ページへ(笑)
ということで、クリエイティビティに溢れる古英語期はゲルマン民族大移動に始まり、500年以上にわたって続き、そして1016年、デーン人のクヌートが英国王となり、さらに1042年にエドワード王が王位を奪還、しかしそのエドワード王も1066年に亡くなりアングロサクソンの王朝が途絶えるという混乱の中終わりを迎えます。
■中英語期(Middle English,12世紀初頭-15世紀末)
1066年、エドワード王の死後、その子ハロルド二世が王位に就くが、それに異を唱えるノルマンディー公ギヨームは6000の軍勢を率いて海を渡り、イングランド南部のへースティングスに上陸、迎え撃つハロルド王率いる7000の軍勢とバトルの丘で激突する。「ノルマン軍は弓兵に援護させながらの騎兵による突撃を繰り返したが,丘上に布陣したハロルド軍は長大な戦斧を装備した重装歩兵による密集陣形でこれに応じ,昼までに戦闘は膠着状態に陥った」(→ヘースティングスの戦い - Wikipedia)のち、激戦の末ハロルド王は戦死、ノルマンディー公ギヨームはウィリアム一世として即位した。このノルマン征服王朝の幕開けとともに中英語期が始まります。
ノルマン征服が英語史上の一大事件だった理由は、フランス人による支配だったことにあります。こののち、約200年に渡ってフランス語が公用語となり、英語は表舞台から姿を消すことになります。
中英語の主な特徴は「フランス語からの借用語の増大、語形変化の単純化、語順の固定化、代名詞の明示化」などです。
・借用語の増大
中英語期にフランス語から借用された語は約1万語とも言われ、そのうち約7500語が現代英語に伝わっているそうです。
例
bill, parliament, judge, money, rent, duke, baron, religion, army, battle, defence, soldier, war, coat, fasion, diamond, boil, fry, roast, cabbage, lettuce, onion, beef, mutton, pork, bacon, uncle, aunt, cousin, parentなどなど。
しかし、このフランス借用語により、古英語の単語はかなりの数が死語、または意味範囲が狭められたりした。
中英語期にはラテン語からの借用語も多く1000語以上の記録が残っている。
例えばactor,ambitious, ceremony, exclude, expantion, incarnate, interrupt, quiet, tradition, include, picture, politeなどが一部は当初と意味は変わりつつも現代英語でも使われている。
1096年に始まる十字軍遠征によってこの時期にアラビア語も相当数英語に入ってきている。
alcohol, alkali, cotton, lemon, sugarなど。
・文法の固定化
「英語の歴史」(P114)
古英語では(文法)性・数・格によって名詞や代名詞類がさまざまな形に変化したが、中英語以降、語尾変化の衰退が進行した。そのため、文中での語の役割(=格)を語形変化によってではなく、語順をSVOに固定させたり、前置詞などを用いることによって表わすようになった。古英語期では、動詞も、法(直説法、仮定法、命令法)、時制、主語の人称・数によってさまざまな活用変化をしたが、活用変化は時を経るにしたがい単純化されていった。
固定化、単純化の始まりが中英語期で、次の近代英語期になると現代英語により近づいていくことになります。
・英語の復権
1204年、ジョン王はフランス王フィリップ二世らフランスの諸侯と領土をめぐって対立、全面戦争となるが、1214年までにノルマンディー他大陸領土のほとんどを失い、さらに教皇にも破門されるなどして、ジョン失地王と呼ばれるが、これによって、のちにフランスとの関係が希薄化していき、英国に対する国家意識が芽生えることになる。
1337年、エドワード三世はフランス王位や領土をめぐり、フランス王と対立、百年戦争が勃発すると、英語に対する意識がさらに高まっていき、1362年には議会の開会宣言が初めて英語で行われ、また同年、法廷でもフランス語ではなく英語を使うことを定める法が制定。1399年に即位したヘンリー四世はノルマン征服以降初の英語を母語とする王だったという。
1384年、このような背景で聖職者ジョン・ウィクリフは完訳英語聖書を発行、詩人チョーサーは中英語を使って「カンタベリー物語」を著すなど、徐々に英語の復権が始まる中で、中英語期は終わり、近代英語期が始まっていく。
The Canterbury Tales (Penguin Classics)
Geoffrey Chaucer,Jill Mann
完訳 カンタベリー物語〈上〉 (岩波文庫)
チョーサー
■近代英語期(Modern English,16世紀初頭-現代)
近代英語期はさらに、初期近代英語(Early Modern English,16世紀初頭-17世紀末)、後期近代英語(Late Modern English,18世紀初頭-19世紀末)、現代英語(Present-day English,20世紀初頭-現代)に分けられる。
1)初期近代英語(Early Modern English,16世紀初頭-17世紀末)
1447年、ドイツの金属加工職人ヨハネス・グーテンベルクはヨーロッパにおいて初めて活版印刷技術の実用化に成功。また、14世紀のイタリアに始まるルネサンスもこの時期、徐々に西欧諸国に広がりを見せていた。
そのような背景で、英国でも16世紀頃からルネサンスが始まり、ギリシア・ラテン古典研究が盛んになり、およそ1万語とも言われるラテン語の語彙が借用語として入ってきた。また1476年、英国の活版印刷家ウィリアム・キャクストンがロンドンのウェストミンスターに印刷所を開設し、印刷物の大量出版が可能となることで、さまざまな語彙が普及することになる。
この時期に入ってきたラテン語は一万語以上ともいわれるが、その半分は廃れてしまったと言う。
この時期にラテン語として入ってきた語としては
secure, camera, divide, direct,など
また、ギリシア語は主に学術用語として入ってきており、接頭辞のbio-, eco-,接尾辞の-logyなどがギリシア語に由来する。
大量の外来語にさらされるとそれに対する批判が起こるのは世の常で、この当時も、ケンブリッジ大学のジョン・チーク教授を中心とした外来語を排斥し、英語本来語を使用しようとする「英語純正運動」が巻き起こっている。
・ウィリアム・シェークスピアの影響
偉大な作家の一人シェークスピアの作品が英語史に残した影響も多大で、特に現代英語の慣用表現にも、シェークスピア起源のものが多い。
It's (all) Greak to me.(ちんぷんかんぷん:「ジュリアス・シーザー」)
eat the leek(屈辱を忍ぶ:「ヘンリー五世」)
the green-eyed monster(嫉妬:「オセロ」)
on purpose(故意に:「間違いつづき」)
salad days(未熟な青年時代:「アントニーとクレオパトラ」)
Julius Caesar (Dover Thrift Editions)
William Shakespeare
ジュリアス・シーザー (新潮文庫)
シェイクスピア,福田 恒存
・欽定訳聖書
1611年に上梓された英語聖書で、こちらも英語表現の発達に貢献した。
cast pearls before swine(豚に真珠)
the scales fall from one's eyes(目からうろこが落ちる)
an eye for an eye(目には目)
などの慣用表現の初出はこれだそうだ。
・ゼロ派生
「英語の歴史」(P89)
中英語期から近代英語期にかけて英語は多種多様な外来語を取り入れた。その反面、古英語で活発であった派生、複合など、自らの素材を用いて語を作り出す能力が減退した。古英語では、lufu(現代英語のloveに対応)の語幹luf-に動詞派生語尾-ianを付けることで、動詞形lufianを派生したが、中英語以降、語尾変化の簡略化が進行したため、動詞に付く語尾は消失した。その結果、近代英語では名詞・動詞ともにloveという同じ形になり、もはや語形だけで品詞を判断することはできなくなった。
しかし、このことは英語に思わぬ利益をもたらすことになる。品詞が異なっても語形が同じということは、逆に言えば、語形が同じままで自由に品詞転換ができるからである。専門用語では、派生語尾を何も付けずに品詞転換を行うので、「ゼロ派生」または「転換」という。
これ、読んだとき、かなりしびれました。ビックリマークでいうと「!!!!!!!!!!!!!」ぐらいの感じ。まさにイノベーションじゃないですか。
例えばknow(知っている)という動詞はゼロ派生によって、be in the know(内情に通じている)という語句で名詞として機能するなど。
主にゼロ派生は初期近代英語期にシェークスピアらによって頻繁に使われ、18世紀の後期近代英語期に批判を浴びるが、その批判を潜り抜けて現代英語でも使われている。
Do you Google?(ググってる?)
のように。
この一つの単語に動詞も名詞もあるみたいなのって、単語を覚えようとしているときはやたら面倒だなぁと思うんですが、こうして経緯を知ってみるととても面白いなぁと思いますね。
・英語の拡大
1588年、スペインの絶対君主フェリペ二世は英国征服を企図して、当時世界最強と言われた無敵艦隊131隻、兵員約30000名を英国に派遣するが、アルマダの海戦において、フランシス・ドレークを実質的指揮官とする英国海軍の奇襲攻撃により壊滅させられる。これにより、制海権を握った英国はエリザベス一世女王の元世界へと乗り出していく。
このアルマダの海戦が英語が世界中に広がる契機となったターニングポイントの一つでした。この後、英国は破竹の勢いで世界に進出していきます。
1600年、東インド会社設立
1607年、アメリカ大陸への入植開始
1620年、ピルグリム・ファーザーズがアメリカ大陸到着
と18世紀に「日の沈まぬ帝国」として君臨するために世界中に拡大していったのが、この初期近代英語期でした。
2)後期近代英語(Late Modern English,18世紀初頭-19世紀末)
さらに世界中に英語が拡大していったのが、この後期近代英語期です。17世紀にアジア、アメリカへと足がかりを築いた英国は、その後も版図を拡大させていきます。
1763年、フランス植民地であったカナダを英国植民地とする
1768年、ジェームズ・クックによるニュージーランド、オーストラリア探検
1776年、アメリカ独立宣言
1795年、南アフリカのオランダ領ケープタウン占領
アメリカは独立したものの、そのアメリカも東部13州から西部へと版図を拡大。それにともなって英語圏も拡大していきます。
この時期に関して、同書ではあまり記述が無いのですが、当然産業革命に伴う技術力や生活の向上も英語の拡大に大きな影響があったでしょう。しかし、アメリカ独立によって、イギリス英語とアメリカ英語は徐々に異なった特徴を持ち始めていきます。
さらに、オーストラリアやインドなど新しく英語圏に加わった国々や、アメリカ黒人英語も独自の発達を遂げはじめた時期です。そしてこの頃にはほぼ文法的には現代と同じSVO式に固定され、人称代名詞や疑問文、否定文の構文も今とほぼ変わらない状態へとなりました。また、派生語、複合語などは廃れ、語形変化も消失していきます。
また、ウィリアム・ジョーンズがインド・ヨーロッパ系の言語の同一起源説を提唱し、ヤーコブ・グリムがグリムの法則(ゲルマン語と他の言語と音の対応の法則)を定式化し、ウェブスター英語辞典やオックスフォード英語辞典が発行されるなど英語研究が進んだのもこの時期です。
オックスフォード現代英英辞典 第7版
A S Hornby
3)現代英語(Present-day English,20世紀初頭-現代)
英米社会を反映し「科学技術関連語句」「環境問題関連語句」「差別関連語句」「性差・フェミニズム関連語句」が大きく増え、それらの影響が英語表現にも影響を及ぼしている。
・「科学技術関連の表現」
例えばインターネット上の英語ではFAQ(frequently asked question), FYI(for your information), AFAIK(as far as I know)など省略表現が頻繁に使われたり、
「英語の歴史」(P160)
また、文字入力の手間をできるだけ省くため、電子メールやチャットでは、ピリオド、コンマ、クエスチョン・マークなどを使わなかったり、大文字と小文字を区別せずに、
john are you going to london next week(=John,are you going to London next week?)
と書いたりする。
一方、ネット上では、音声言語が持つ強弱・抑揚を用いた感情的ニュアンスが伝わりにくいという側面がある。そのため、This is VERY inportant point.のように大文字を使ったり、This is v e r y inportant point.やThis is *very* inportant point.のように、スペースや星印を使って強調、強い感情を伝えることもある。
・「ポリティカルコレクトネス」
年齢による差別、障害者差別、人種差別などを表す英語表現や単語を婉曲的に言い換えることが進んでいる。例えば黒人をAfrican-American、アメリカンインディアンをNative Americanと呼ぶなどが代表的だが、一部の差別表現の言い換えには婉曲的過ぎて、元の表現より「冗長でぎこちない」といった、各国共通の問題があるようだ。
・「性差・フェミニズム」
1960年代からアメリカで始まったフェミニズム運動の一環で「言葉における性差別」の解消も対象となった。chairemanをchaireperson、stewardessをflight attendantと言い換えるなど女性を表わす接尾辞-essを回避するなどが代表的。ちょっと行き過ぎた例としては、聖書の書き換えもあるらしい。
「英語の歴史」(P181)
旧約聖書の「創世記」の中でも、最も有名な節である「神は御自分にかたどって人を創造された」(1章27節、新共同訳)は、かつてはSo God created man in his own image.となっていたが、最近の英訳聖書ではSo God created humankind in his own image.やGod created human begins in his own image.などと書き改められている。
一部の(急進的な)フェミニストたちは、さらに、神をfather,イエスをSon of Manなどに喩える「家父長的隠喩」を問題視している。
そこで、「差別的でない新約聖書」なども発行され、神に対して男性代名詞を用いることを避けた表現をしているものもあるとか。
英語圏の言語は確かに家父長的社会、階級社会の影響を強く受けているだけに、このような人種・性差別解消の動きは言語にも大きく及んでいきそうな様相であるようだ。
・英語圏の現状
また、2007年時点で、英語人口は全世界で約十五億人近くにのぼる。
「母語としての英語」(English as a Native Language :ENL):約3億2000万人〜4億人
英国、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなどの人々。
「第二言語としての英語」(Englisg as a Second Language :ESL):3億5000万人
ナイジェリア、インド、シンガポール、南アフリカなど世界70カ国。
「外国語としての英語」(English as a Foreign Language :EFL):約7億5000万人
英語を母語や公用語としていないが学校教育で英語を取り入れている国。日本など。
別の調査で、インターネット人口の30.1%が英語、つづいて中国語14.7%、スペイン語9.0%、日本語6.9%というデータも掲載されている。今後はENL層は漸減し、ESL、EFL層が大幅に増えていくとともに、中国語が英語人口に対抗する勢力になっていくと見られている。
■英語の未来
冒頭、H・G・ウェルズの予言を紹介しましたが、果たしてこれから英語はどのようになっていくのでしょうか。
1991年、英国のチャールズ皇太子が、チェコスロバキア(当時)の英語教師向けに以下のようなスピーチを行いました。
「英語の歴史」(P191-192)
This kind of nightmare could possibily become a reality unless there is agreement that there are enduring standards,a common core of language,and common standard of grammar.
(共通の核となる確固とした標準英語や標準英文法が存在するのだという合意がなければ、悪夢は、ひょっとすると現実のものとなるかもしれない。)
(『ガーディアン』1991年5月9日)
この「悪夢」とは、十九世紀の言語学者ヘンリー・スウィートなど、英語学者の間でささやかれる予測の一つ、今後、イギリス英語、アメリカ英語、オーストラリア英語、あるいは諸国の英語が独自の道を歩んでいくことで、英語同士の意思疎通が出来なくなるのではないか?という危惧です。
チャールズ皇太子のスピーチなだけに、この「標準英語」とはイギリス英語を想定していて、アメリカ英語の伸張への危惧でもあるのでしょうが、今後ますますESL、EFL層が増えていくことが想定されているだけに、英語全体としても今はまだ大丈夫だけど、ありえない未来ではないと言えるかもしれません。
高みを目指したが故に共通の言葉を奪われるのではなく、広がり続けるが故に共通の言葉を失う未来を恐れているというのは皮肉だなぁ、と思わずにはいられませんね。
「英語の歴史」(P199)
将来、イギリス英語やアメリカ英語の話者も、ESLやEFLの影響を受けた国際英語と母語である英語変種の2つを場面に応じて使い分ける必要がでてくるかもしれない。その時、はじめて英語は、一部のENL話者の手を離れ、真の意味で国際化したといえるかもしれない。
この本の結びは、これまでの英語の歴史を存分に記されているだけにかなりの説得力を持っているなぁと思います。
で、日本語なんですが、柔軟性や創造性、語順を気にしない特徴が古英語期〜中英語期の英語とそっくりな気がするんですけどね。1000年前の英語のように、どんどん外来語を取り込んで逆に日本語化してしまうぐらいの、比類ないタフさだと思います。そのタフさが英語を学ぶ上で障害になっているのかもしれませんが、「固定化された日本語」より、語順など気にせず派生語や複合語を自由に作れる日本語の方が魅力的なんじゃないですかね。英語の歴史はそう語っているように感じました。
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追記
古英語、中英語については一部表記できない文字を現在のアルファベットに置き換えて表記しています。